究建築研究室 Q-Labo.
究建築研究室 Q-Archi. Labo.|京都の建築設計事務所

2012年02月: 究建築研究室 Q-Labo.|https://q-labo.info/2012/02/
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ファテープル・シークリー Fatehpur Sikri:India, 2007

ファテープル・シークリーは16世紀、アーグラの南西にある岩だらけの丘陵上にムガル帝国第3代皇帝アクバルによって築かれた新都市である。その整然とした幾何学的構成の魅力は今も色褪せない。

世界遺産でロケしまくった楽しい映画「落下の王国」では、物語のクライマックスのシーンでファテープル・シークリーのあちこちの場所が使われていて、一見の価値あり。

ちなみにムガル帝国のルーツは中央アジアで、系譜を遡るとチンギス・ハンに至るという。ムガルとは「モンゴル」の転訛である。そのモンゴルの末裔たるアクバルは、インドにおけるヒンドゥーとイスラームの文化融合に大きな役割を果たした人物として知られる。


ブランド・ダルワーザ Buland Darwaza
アクバルのグジャラート地方征服を記念して建設されたという楼門。ファテプル・シークリーの門、というわけではなくて、その一部にある金曜モスクの門。
正面に巨大なイーワーンを備え、上部と背面には無数のチャトリが乗っている。
前に急勾配の巨大な階段を備えているため、凄まじく劇的な効果が生まれている。
赤・黄の砂岩と白い大理石の三色構成が見事。


ブランド・ダルワーザの背面(内側から見た側)。
尖頭アーチの壁龕イーワーンは見ての通りイスラームの要素であり、4本足のチャトリは木造由来のインド土着の建築スタイルである。大小のチャトリが並んでいる様子は幻想的でもあり、またある種の可愛らしい雰囲気がある。

門の内側にはモスクらしく巨大な中庭が広がっている。
ここを訪れたのは一年で最もアツイ6月。太陽はぎらつき、地面の石畳は裸足で歩けないほど熱されていた。日向を歩いていると大げさでなく生命の危機を感じた。
ので、みんな回廊の日陰に避難している。


パンチ・マハル Panch Mahal
名前は五(パンチ)層の宮殿(マハル)の意。壁がまったくなく、柱と床だけで構成されているという、ありそうでいてあまり見かけない建築。居住ではなく納涼と遊興のための場だったと言われる。
ヒンドゥーともイスラームともつかない独特の構成・意匠について、飯塚キヨは仏教建築の五重塔の影響を指摘しているが、ありえそうな話である。
この開けっぴろげな感じととのびのびと積層した感覚は、日本建築の流店や飛雲閣を思い起こさせる。

ファテプル・シークリーにはいろいろな形の建築があるが、基本的に赤砂岩でできているので、非常に統一感がある。お兄さんたちの黄色や水色のシャツがまぶしい。この建築の色彩(ほとんど砂漠と一緒)の中に、色鮮やかな衣服が生まれてくるのはとても自然に思える。
うしろの片持ちの階段とドアがついた壁面は、ラジャスタンの住居で時々見かけるものだけれど、えらく洗練されている。

パンチ・マハルの最下層。
ルーツがなんにせよ、このような風通しのよい日陰の空間は、暑い季節にはとても心地良いのでした。


ディワーニー・カース Diwan-i-khas
王の執務の場であり、私的な謁見のための場であったとされる。

内部には対角線状にブリッジが渡っており、中央に巨大な柱頭をもつ柱で支えられた円形の台座がある。謁見を受ける者は1階の床にいて、この中央のプラットフォームに座るアクバルに謁見する。重臣たちは橋の反対側に位置していて、アクバルが意見を聴く必要に応じて(重臣たちが互いに相談できないよう)一人ずつ召し寄せられたという。
この極めて求心的な構成は、そのような謁見機能の反映であると同時に、ヒンドゥー教徒にとってはマンダラ以外のなにものでもない。柱はリンガにも通じる世界軸(アクシス・ムンディ)の具現である。この建築には、アクバルを中心とする世界の秩序化の意志が表明されているようである。


サリーム・チシュティー廟
モスクの中庭にある総白大理石造りの廟。
外壁面のほとんどが幾何学模様の石彫のスクリーンとなっている。その繊細さと全面がスクリーンとなったことで生まれる淡い空間性はタージ・マハル以上だと思う。


おまけ
ファテープル・シークリーの後ではいった小さな食堂の飯。この内容で一人30ルピーは、やや高い印象。観光地価格かな。

アグラに帰る途中で見かけた、転落しかけのバス。怖い・・

| MEMO 雑記・ブログ , PICTUREs 旅と建築 | 12.02.28

枚方TK邸:ちゃくちゃく

枚方TK邸は、4月上旬の完成をめざして順調に進行中です。

左:
片流れの屋根、玄関の庇、サッシがついて外観も輪郭が見えてきました。

右:
リビングの開口部の造作中。大きめの窓からはここのお子さんが通う予定の小学校が見えます。小学校の校庭からお母さんに手をふることもできたり。

フローリングもだいたい施工完了。今回はスギです。

左:
階段もつきました。階段を上がって左側のサッシを開けると、屋根のついたテラスへ出ます。右へ行くとリビングへ。

右:室内のようにしつらえたテラス。建物の端から端まで抜けていて、見通しも風通しもなかなか。

外壁もだんだん形になってきました。今回はサイディングベースに吹付けでの仕上げ。一部に焼杉板が混じってくる感じです。
内部の構成についてもいろいろ書きたいことがありますが、それはもう少し仕上がってからにします。

Tags: | MEMO 雑記・ブログ | 12.02.18 | (0)

年賀状・撰 2012

2月になってしまいましたが、今年の「年賀状・撰」の発表です。
年賀状という日本のコミュニケーション文化を尊重し、年賀状に込められた創意・工夫を讃え選出作を1年間掲示鑑賞する、というこの企画も4年目。

 >> 主旨と弁明
 >> 年賀状・撰 2011
 >> (2010はアップロードしそびれ)
 >> 年賀状・撰 2009(その1その2

今年も10作品を選出しました。
おおまかな基準は、①手間がかけられていて、②読んで触って眺めて楽しめて、③一年間飾っておきたくなるもの、といったところ。特に③の比重が年々大きくなっています。


それでは本年のBEST3から。

●BEST3

文具屋や100円ショップでも売ってる丸シールを、少しずつずらしながら重ねて貼ってあります。これは(どこにも書いてないですが)もちろん龍の鱗でしょう。
身近な材料を使って、シンプルながらも意外性のある抽象度の高い表現をつくりだす。建築家の面目躍如といった感じです。シールの数はハガキ一枚あたり約110枚。かけられている手間もすごい。
「ひょっとしてものすごく暇?」と心配させてしまうのが唯一の欠点でしょうか。
○差出人:牧野研造建築設計事務所さん

例年名作の多い家族肖像の今年のベスト。
自分のも含め親バカ年賀状は多いですが、ここまで突き抜けると素晴らしい。
とにかく、見ていると顔が自然にほころんでしまいます。
○差出人:建築家・H野氏(一応フリーではないので匿名に)

『凡夫』という人間観について。
定型テキストの年賀状を読んでこれほど感じ入ったのは初めてです。
「説教」のありがたさとはこういうものかと実感しました。
○差出人:法然院貫主・梶田真章さん


つづいてジャンル別の入賞作。

●干支

  

【左】
おせちの重箱を貫く昇り竜。浅見さんは昨年のBEST。さすがの画力でもう殿堂入り。
○差出人:浅見俊幸建築設計室さん

【右】
家具製作に使う工具を使った道具文字。差し金の大きさから想像すると4×8版くらいサイズがありそう。こういうのはすごく好きです。「木」のやつとか「工」の縦の棒とか、何に使うのかよくわからない道具も。
○差出人:マエダ木工さん

【下】
絵はたぶん小学生のお子さんが描いたもの。この力強さ・自信にあふれた描線をぜひ維持してほしいものです。
○差出人:紫野の町家住人・AさんBさん


●絵・写真

 

【左】
日暮さんは4年連続の入賞。写真だったら殿堂入りでしたが、今年は神楽岡のスライド会でも見せてもらったマリのコンパウンドを描いた緻密なドローイング。日暮さんは設計・写真・スポーツ・絵と、何でもできるんだなあ。
○差出人:写真家・日暮雄一さん

【右】
飾っておきたいハガキ、となるとやはりプロの写真家のものが入ってきます。今回は中村さんの湿度と奥行きの感じられる熱帯温室の写真。温室の中に住むというのは僕の夢の一つです。
○差出人:中村絵写真事務所さん


●本人

シュワーベさんどうしたんですか・・。腰のひねりが効いたポーズが入選の決め手。
○差出人:巨大ペンタキスをかぶったカスパー・シュワーベさん


●オリジナル

盛さんは2年連続。昨年に引き続き活字のみによる干支の表現が格好よい。活版印刷の立体感・触感も見事。殿堂入りですね。
○差出人:グラフィックデザイナー・盛あやこさん


●番外

うちのチビ1号がモデルになっているので・・・。頭から富士山が生えています。
○差出人:写真家・梅田彩華さん


今年も年賀状をいただきありがとうございました。
謹んで一年間、掲示・鑑賞させていただきます。

Tags: | MEMO 雑記・ブログ | 12.02.16 | (0)