究建築研究室 Q-Labo.
究建築研究室 Q-Archi. Labo.|京都の建築設計事務所

2009年11月: 究建築研究室 Q-Labo.|https://q-labo.info/2009/11/
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ウチヒサール Uchisar:Cappadocia, Turkey, 1996

ウチヒサール Uchisar:Cappadocia, Turkey, 1996

Tags: | MEMO 雑記・ブログ , PICTUREs 旅と建築 | 09.11.23 | (0)

金沢いろいろ:加賀3

成巽閣入口部分。なまこ壁の下の三色の石積がきれい


雪の科学館の後は金沢に宿をとり、寿司や鴨の治部煮など食べる。長流亭で時間をとりすぎて昼食抜きだったのだけど、腹が減り過ぎるとビールも飲めないことを知りました。
で、2日目は金沢を少し巡りました。

1件目、成巽閣。再訪。
残念ながら室内撮影禁止。ウルトラマリンの天井のショックは二度目でも変わらない。19世紀の座敷ながら、いまだ時代が追いついてないんではないかというくらいの、鮮烈で不思議な和風空間。

さて、今回の目当ては特別公開中の茶室・清香軒

屋内化された露地(上の写真)や原叟床(げんそうどこ)という床で有名な茶室(特別拝観料700円もとるのに、室内は撮影禁止。でも露地はOK。室外だから…)。ただし、茶室内にも露地にも入れない。せめて露地の建具も開け放ってほしかった。
が、文句ばかり言っても仕方ないので、茶室内から建具を開け放った露地越しに庭を眺める感じを一生懸命想像し、とりあえず、土間・縁側・入れ子構成の良さを併せ持った仕掛けと理解する。


2件目、金沢21世紀美術館。再訪。
ベビーカーを押しながら館内を練り歩く。たまたまやってた横尾忠則の企画展がとてもよかった。生活即アートという旺盛な表現活動を少しは見習いたいもの。発想と表現の隔たりはもっと小さくてよいんじゃないか、というようなことを考える。

3件目、ひがし茶屋街に行き、挟土秀平が手掛けたという金箔屋さんの総金箔貼り土蔵「箔座ひかり藏」。百式だ〜。
金箔の質感が土蔵の彫塑的な形態と意外なほどマッチして、いやらしさの無い端正な表情。見慣れたモノを白く塗り込めることで「意味を剥奪」して「抽象化」する、というあんまり好きじゃない現代アート(建築)の手法があるけど、それに近い。ただ、「金」というぬぐいがたい濃厚な「意味」が重なられてるので、別の生々しさを帯びていて、庶民は心穏やかに見ることができません。


ひがし茶屋街は、ここら辺の通り景観が有名だけど、少し裏にはいると上の写真のような感じで、様々な表情・色の下見板のコラージュのような街並みが面白い。さながら下見板の展覧会。使い古された下見板という外壁仕上げも、やり方次第でいろんな表情が生まれることがよくわかる。金沢の民家は下見板に注目です。

京都の町家にも下見板の外壁はよくあるけど、ここまで全面覆ってしまうのは見たことがない。他の土地ではあったかな? 外壁に左官を使わないのは、何か理由があるのだろうか。
そういえば清巽閣の案内のお姉さんは、こういう壁を指して、「ワッフル壁」と呼んでいました。うーむ。


4件目、帰りがけによった金沢ビーンズ(設計:迫慶一郎)。
曲面に本棚が並ぶ面白さは想像通りだったけど、円のモチーフから生まれる放射状の棚配置がよかった。見通しは悪いけど、足をすすめると次々と書架が迫り来る感じは、あえて例えると、3Dシューティングゲームのような感覚。照明もフツーの蛍光灯なんだけど、空間にあわせて工夫してて好感度○。立ち読み・座り読みできる場所も豊富に用意されてて、書店と図書館のいいとこをあわせた魅力的な店舗だ。こりゃ、流行るわ。

Tags: | MEMO 雑記・ブログ | 09.11.22 | (0)

中谷宇吉郎雪の科学館:加賀2

雪の科学館から柴山潟をのぞむ

長流亭をあとにして、今回の主目的地・加賀市の中谷宇吉郎雪の科学館へ。
長流亭で時間をとりすぎたため、表彰式会場に到着したのは開始3分前だった。すいません。
前日に着任したばかりという加賀市長から賞状と賞金(今回の旅費で無くなりましたが)をいただいた後、館内で作品解説、併設のカフェで懇親会(アルコール無し)など。

館の中身の紹介については、こちらのサイト(堀越英美のハハコで行きたいハーコーなハコモノ巡りの旅)がたいへん的確にして面白いです。


左:
芝生張りの斜面が拡がる館へのアプローチ。冬になると雪をかぶった白山が見えるそうだ。なんとなく北欧っぽい雰囲気がするのは何故でしょうかね。アスプルンドの「森の葬祭場」を彷彿とさせるようなさせないようなウッフン(行ったことないけど)。

右:
展示中の拙作「SNOW CRYSTAL*HABITATION」。
建築のスケッチが趣味という、審査員の一人・樋口敬二氏(中谷宇吉郎の直弟子にして雪氷物理学の第一人)にいろいろとお褒めの言葉をいただき、「特別賞」ということで氏の旅のスケッチの絵ハガキを頂戴。ありがとうございます。物理学の方に評価してもらえるのは、とても嬉しい。


左:
エントランスホール上部の六角形のガラス屋根。
雪の科学館の設計は磯崎新(1994年)。基壇に六角形の塔が3つ乗る、という全体構成で、基壇部が展示スペース、塔の中がエントランスホールと映像ホールにあてられている。象徴的な六角塔と基壇が空間的に無関係な点はすごく気になるし、内部のデザインには脱力感さえ感じるものの、アプローチの仕掛けや六角塔の大胆なトップライト、ガラス張りのカフェ越しに柴山潟をのぞむシーン(冒頭の写真)など、要所の押さえ方はさすがにうまいなぁと。
ただ、ここをこうすれば、ホラ、いいでしょ?という「お膳立て感」がやや鼻につく。それを、下見板や荒いモルタル掻落しなど質感のある控えめな素材が、やや抑えている。のかな。

右:六角塔の外壁の下見板


左:
併設のカフェ(柴山潟を一望する、たいへん気持ちのよいスペース)にあったモンローチェア。初めて実物を見た。意外にでかく、意外に座り心地はよい。座面が広いからかな。この形状ゆえ背をもたせかけにくいので、自然と背筋の伸びる椅子でもあった。

右:
館内で体験できるチンダル像の観察実験。きれいに結晶化した氷を輻射により内部に熱を加えると、(たぶん雪の結晶成長と逆のプロセスが進行して)雪の結晶のような形で氷が溶けていく。写真はこの現象をOHPで映し出したもの。おぉ〜と思わず声が出てしまいます。
このほかにもダイヤモンドダスト発生装置などあり、科学ミュージアムとして非常に充実している。館の職員さんが誇りをもって熱心に活動されているのが、とてもよく伝わってくる。

下:
中谷宇吉郎が自ら設計したという自宅の模型。
伝導・対流・輻射の原理をふまえ、中心のペチカから家全体が均等に温まるように作られているのだとか。
うーむ。この模型を見る限り、空間的にはあまり魅力的でなさそうなんだが、面白いテーマ設定ではある。現代でも建築環境学の人はこういうの考えたりするのだろうか。


おまけ:
僕の好きな中谷宇吉郎の一文 「たまごの立つ話
わりと有名な「立春の卵」というエッセイを、中谷宇吉郎自身が心優しいラララ科学の子供向けに書き改めたもの。

Tags: | MEMO 雑記・ブログ | 09.11.07 | (0)

長流亭:加賀1

江沼神社・長流亭

10月31日・11月1日と、これの授賞式を口実に、久しぶりの遠出で加賀・金沢旅行。前日からチビが熱を出していたけれど、レンタカーも借り宿も予約してあったので、今さら中止できるかと出発する。チャイルドシートが気に入らないチビの泣き声を背中に延々と聞きながら北陸道を走り、まずは加賀・大聖寺へ。

この近辺、安藤忠雄の中学校とか象設計集団の美術館とか、目当てはいくつかあったけれど、時間が少ないので一点に絞ったのが、江沼神社の長流亭。今回の旅行で見た建築で一番よかった。

これ、数年前の神楽岡の金沢遠足の際には存在も知らなかったのだけど、たまたま数ヶ月前に大龍堂で買った、『和風建築』というえらくマニアックな雑誌に載っていたので知った(雑誌『和風建築』は既に廃刊。編集:和風建築社、発行:建築資料研究社。ちなみに長流亭の解説は西澤文隆の筆で、いわゆる歴史建築の紹介と違った、設計者の視点からのディテール解読が切れ味鋭く面白い)。


 
左:長流亭平面図、右:回廊から一の間の付書院を見る(『和風建築』1983年8月号、p.88,89より)


長流亭の創建は1709年、加賀前田家の傍流・大聖寺藩第3代藩主の前田利直による。川に迫り出して建っているのは、ここから直接釣りを楽しむためだからという。

長流亭は、川からの端正な外観もさることながら、プランが面白い。とっても構成的なのだ。
正方形プランの外周を、一畳幅の回廊がロの字形に巡っていて、その内側に6.5畳の座敷が二つあるという入れ子状プランである。回廊に面した外壁は、四面すべて腰から鴨居まで障子の入った開口部になっている。
二つの座敷は、一の間(正の座敷)と次の間(控えの座敷)で、一の間の方には付書院がついている。その付書院の火灯窓に、回廊を横切った光がやわらかく差し込む。これだけでも入れ子プラン好きの僕としてはわくわくするのであるが、入れ子プランというだけなら、縁側のある日本建築ではそれほど珍しくない(とはいえ、これほど明快な回廊型プランは珍しい)。しかし長流亭の面白いのは、二つの座敷の床の間が斜交いに配置されている点だ。ロの字の廊下とあわせて見ると、全体として「二つ巴」形のプランとなっている。つまり点対称なのだ。点対称は回転対称ともいう(2回対称)。
回廊を巡って座敷に入ると、どちらの座敷に入ったとしても、同じ方向に床の間がある。そして、その床の間と呼応するように、もう一つの床の間が斜めに対面している。そっちの床の間に引かれるように次の座敷に入ると、再び外の光に導かれるように反対側の回廊に出てしまう。
まさに巴紋のように、グルグル回る回転運動が長流亭には仕掛けられているのであった。


 
「二つ巴」と「七宝ニ花菱」


亭の装飾では、板戸や畳縁など至る処にちりばめられた「七宝(+花菱)紋」が目を引く。江沼神社の宮司さんによると、この建築の基本構想は小堀遠州によるという伝があるらしく、七宝紋はそれに由来するのだとか(七宝は小堀遠州が好んだモチーフ)。
これが七宝じゃなくて巴だったら、建築の構成とも対応してバッチリなのに、と思ったが、よく考えると、円の中に菱が入った七宝も、この入れ子状プランをうまく図案化しているような気がする。七宝の4つの葉形が回廊であり、菱が座敷と見れる。さらに、辺を下にした安定感のある四角(□)と比べ、頂点を下にした菱(◇)は不安定な図形であり、そこには回転運動が潜在しているからだ。



玄関からみた座敷と回廊。残念ながら中は写真撮影禁止


長流亭は事前に申し込めば内部を見学させてもらえる。障子の外の板戸も一部開けてくれるけれど、いつか機会があれば、板戸を全開にした本来の状態で味わってみたいなぁ。

Tags: | MEMO 雑記・ブログ , SELECTED 選り抜き | 09.11.06 | (0)