SAKAN Shell Structure
災害時仮設住宅(共同研究), 滋賀県彦根市, 2007
伝統技術を活用した災害仮設住宅の建設技術開発に関する研究
〜左官技術を用いた自助建設型シェル構造ユニット〜
通称:SSS(SAKAN Shell Structure)
家屋倒壊をともなうような大規模地震災害時には、交通やインフラが寸断された中で、応急的シェルターを迅速かつ大量に建設することが、まずは緊急の課題であろう。しかし、トラックに山積みで運び込まれたプレファブ資材を組み立てた均質な仮設住宅が建ち並ぶ、どこの被災地でも共通して見られる風景には、ある種の違和感を覚えていた。
「仮設」とはいえ、人の住まいである。その土地の建築文化や居住者の思いを受けとめることができるような仮設住宅があってもよいのではないか。SSSの開発は、そのような思いに端を発している。
今回のSSS実験棟は、特に京都という場所を意識してつくられた。京都では戦乱等により市街地が壊滅すると、人々が社寺をよりどころとして生活するという都市の伝統があった。現代でも緊急時の生活拠点として社寺境内が積極的に活用されてよいだろう。
しかし境内を敷地として想定すると、従来のような工業製品を組み合わせた仮設住宅は避けたい。幸い京都には、社寺修復を通して日本随一の左官技術が受け継がれている。その土地で入手可能な材料を使い、素人でも建設に参加できる、そんな要望に応えうるのが左官という技術の大きな強みだ。主材料となる土や石灰は、平常時には境内ランドスケープの一部として保管しておくこともできる。この伝統を活かしていくことで、新しい仮設住宅を生み出すことができないだろうか……。
こうした条件設定のもと、約2年にわたり材料・構造・構法・デザイン全般についての検討を重ね、2007年春、滋賀県立大学キャンパス内に実物大実験棟が完成した。
SSSの形状は、長軸6000mm・短軸3600mmの半楕円形を基本として、これを垂直軸回りに回転させ、さらに一辺3000mmの立方体によって立体的に切断したものである。切断面はアーチ形の開口部となり、全体として平面・高さともに3000mm、四つ足のドーム状となる。これを基本ユニットとして、4〜5棟連結させることで1軒の仮設住宅を構成するという計画である。
SSSの最大の特徴は、
(1)空気膜を施工用型枠として用い、
(2)無筋のモルタルシェル構造体(エッグ・シェル)を、
(3)左官技術によって施工する、という建設システムにある。
構造体の施工法は、空気でドーム状に膨らんだ樹脂製空気膜に麻製のネットを被せ、ガラス繊維で補強したモルタルを塗りつけるというもので、非常に簡単な設備で無筋のモルタルシェルを形づくることができる。シェルの厚みは15〜30mm程度、通常のコンクリート構造に比べて使用材料は極端に少ない。また、空気膜の型枠はコンクリートの硬化後に空気を抜いて取り外し、何度でも再利用することが可能であり、災害後の短期間に大量の建築空間を実現することが出来るシステムとなっている。
高度な建設技術を用いず単純な左官作業のみで施工可能であることから、素人でも比較的容易に建設に参加することができる。その後、住民自身がコンクリートのドームの上に土や漆喰を塗り重ねることで、耐震性能や居住性能を向上させていくことも可能である
名称:SAKAN Shell Structure(SSS)
設計・施工:SAKAN Shell Structure 研究委員会 【50音順】
構造:小澤雄樹(立命館大学講師)
構法原案・左官工法:森田一弥(森田一弥建築工房)
設計・平面計画:柳沢究(神戸芸術工科大学助手)
企画・全体統括:山本直彦(奈良女子大学准教授)
施工協力:(株)小川テック、久住鴻輔(久住左官)
面積:8.6m2(1棟)
研究・設計期間:2005年6月〜2007年2月
実験棟施工期間:2007年3月〜2007年5月(施工所要日数 8日間)
主体構造:無筋モルタルシェル構造
主要仕上材料:漆喰、ロクタ紙、三和土、開口部付きテント膜
研究援助:住宅総合研究財団(平成17年度助成研究No.0536、主査:山本直彦)、立命館大学21世紀COEプログラム「文化遺産を核とした歴史都市の防災研究」、学術フロンティア推進事業「文化遺産と芸術作品を自然災害から防御するための学理の構築」
協力:石塚祐至(立命館大学大学院)、林亮介(滋賀県立大学大学院)、平尾和洋(立命館大学准教授)、井上真澄(立命館大学助教)、山田協太(鳥取環境大学助手)、日本NHL委員会(水硬性石灰提供)、(株)安部日鋼工業、立命館大学・滋賀県立大学・奈良女子大学の学生の皆さん