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糞詰まり雑感: 究建築研究室 Q-Labo.|https://q-labo.info/article/000503.php
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糞詰まり雑感

家の排水管が詰まったという尾籠な話です。ご注意ください。原稿を溜めているのにこんなことを書いている場合ではないと自覚しつつ、溜まりかねて書きました。

Facebookにて、2023年3月11日投稿(同4月7日最終修正)


プロローグ

先週、家のトイレの排水管が詰まった。水や大小の便(以下、Uと略記)が流れない。困った。実は予兆があって、昨年末にも一度詰まったのである。その時は慌てて水道業者さんに来てもらい、いわゆるスッポン(ラバーカップという)一発で解決した。トラップの詰まりだったようだ。

そんなこともあって今回は即スッポンを購入し、自力で対処した。幸いスッポン行使により水は流れた。しかし、その後も流れが悪かったので、重曹や配管詰まりに効くという洗剤やらを投与しつつ、水の流れが滞るたびにスッポンを手に取り、これが21世紀の生活なのかなと思いつつ、だましだまし数日は使っていた。

しかし次第にスッポンを用いると、トイレ内の手洗いの排水口からゴボゴボと音がするようになった。これはスッポンによる圧力で、排水管内の水が排水管上流にある手洗い側に動いたということである。つまり、詰まりは便器のトラップではなく、その先の排水管で発生していることが伺われた。ちょっとまずいなと思った。その翌々日くらい、例によってスッポンすると便器の設置面の床から水が溢れた。圧力のかかった水が排水管を抜けられず、排水管内を逆流もできず、行き場をなくしたようである。これはもう手に負えないと観念し、ここで前回世話になった水道屋さんに連絡した。後から考えれば、遅すぎる対応であった。

幸い2時間くらいで水道屋のおっちゃんが駆けつけてくれた。スッポンを試して、すぐにトラップではなくその先が詰まっていると判断され、外に出てトイレに近い汚水枡を確認することになった。


解消作業

おっちゃんが汚水枡の蓋を開けると、Uがみっちりと、詰められるだけ詰まっていた。二人揃って、うわと声が出た。その頂部には1日前に投入した洗剤の泡がふんわりと乗っていた。これでは流れるはずがない。その下流の枡を開けると、そこは無事だったのであるが、枡の中が濡れていない。つまり水が来ていない。このあたりで今後とり行われる作業が予想されゲンナリした気持ちになったのであるが、自分と家族のUであるから文句は言えない。

おっちゃんは枡の中に詰まったUに、そこらに転がっていた太めの木の枝を刺して、硬さを確かめるようにかき混ぜながら(私は、アラレちゃんだ、と思って見ていた)、取るしかないなーと言う。しかし、こんな事態とは想定していなかったので道具の持ち合わせがない、何か使えるものないかと言う。園芸用の小さなスコップとレンガ鏝ならあると伝えたら、レンガ鏝が選ばれた。なんとなく左官屋さんに申し訳ない気がした。バケツは吉野荘に持っていっており無かった。味噌を仕込むプラ容器が目に入ったが、さすがに不適切であろうと思いスルーして、庭に放置してあったプラスチックの虫かご(透明のやつ)を差し出した。このことは子供には言っていない。おっちゃんは枡に詰まったUをレンガ鏝で掬い出しては虫かごに移した。「我が糞は臭くなし」という言葉があるがちゃんと臭い。ましてや他人のUである。申し訳無さでいたたまれない気持ちであったが、私がやりますとは言い出せなかった。

枡の中にある程度空間ができたところで、先程スルーした味噌用容器で水を流しこむ(これは私がやった)。下流の枡には水しか流れてこない。2つの枡の間、距離にして5m程度の管のどこかでUが詰まっている。

おっちゃんは棒(庭にあった園芸用の支柱)とホースを、枡から排水管の奥に突っ込んで掻き回しながら水を流す。私は下流の枡の中を覗きながら、水しか流れてこない、と状況を伝える。おっちゃんは再度かきまわしながら水を流す、ということを繰り返す。

20分くらい経ったあたりから、大きめのUの塊がぽつぽつと流れてくるようになった。Uが来た!と大きな声で伝える。ここまで来ると、後はどんぶらこどんぶらこと調子よく流れていく。Uが水に乗って流れゆく様をこれほど清々しい気持ちで見守ったのは初めてであった。いや、そもそもUが流れる様子を見たことがあっただろうかと自問したら、いやいや、25年前の中国の公衆便所で何回も見たことを思い出した。

無事詰まりが解消し、虫かごに汲み上げたUを少しずつ枡にリリースして流し終わったところでおっちゃんは、ほな後はまかせるわ、と引き上げていった。何度も感謝を伝えて見送った後、妻に手伝ってもらいつつ、Uまみれのホースや虫かごを洗い流し、庭で天日干しにした。折しも快晴であり庭の白梅は満開であった。最後に手をよく洗い作業を終えた(ゴム手袋はもちろん使っていた)。おっちゃんが到着してから1時間半くらいの出来事であった。

DSC07402.jpg
作業の様子

一連の作業を終えて

トイレから下水本管へと繋がる建物の中の排水システムは、人体の排泄系とよく似ている。今回の出来事は要するに建物の便秘であった。Uを内側から送り出そうと薬品を投与したり、圧力をかけたりしたが効果がなく、物理的に詰まりを除去することになった。これが便秘解消の最終手段であることは人体も同じである。庭に転がっていた道具を即興で用いたブリコラージュ的対応は、まこと熟練の技であった。

原因は結局分からなかったのであるが、節水のためにトイレタンクの水量を減らす細工をしていたのが一因かもしれない。古い家の排水管は勾配が小さく、水量が少ないと流れにくいという。水分不足による便秘である。

最終枡の蓋を開けて下水本管に流れ去るUを確認しながら、また、以前と同じように勢いよく流れゆくトイレの水を眺めながら、都市の下水システムの恩恵を享受できることに今更ながらの感謝の念を抱いた。同時に、一昔前は普通に汲み取りだったのだし、所詮は自分のUではないか、次に同じ事態が起こったら自分で対処できるという実感が得られたことは大きな成果であった。人の家のはやりたくないけれど。

建築に携わるものとして、現代都市に生きるものとして、実によい経験をしたと心から思った。負け惜しみでも自棄糞でもなく。

| ARTICLEs 小論 | 23.07.31

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