木材に塗る油について
フローリングや柱の手入れに使う油、ベンガラや松煙を混ぜて木材に塗装する時に使う油についての簡単な解説です。亜麻仁油、荏油、桐油、椿油について。
『コンフォルト Comfort』No.76、建築資料研究社(2004年)掲載
油は原料から大きく動物油脂と植物油脂に分けられ、さらに植物油脂は乾燥性の度合いにより、乾性油、不乾性油、半乾性油に分類される。木材塗装に用いられるのは、空気中にさらしておくと自然乾燥し塗膜をつくる乾性油であり、乾燥が著しく遅い不乾性油は主に木材のメンテナンスに使用される。
塗装に際しては、油に各種顔料を溶いて塗る方法と、白木あるいは一旦着色した上に油のみを塗る方法(いわゆるオイルフィニッシュ)とがあるが、木材に浸透して塗膜をつくり、耐久性を与えるという点では変わらない。
またどちらの場合でも、油を刷毛で塗っただけでは塗膜が厚すぎて木材の表情が減じる上に、乾燥に極めて時間がかかり、刷毛目も残りやすい。したがって、特に光沢を出したい場合を除いて、通常はウエスに染みこませて拭き込むか、はじめに刷毛やローラーで塗布した後に余分な塗料を拭き取る仕上げとする。
塗膜の強度を増したいときは、乾いた後に重ねて拭き込んでやるとよい。手がよく触れる箇所のメンテナンスも同様である。
顔料を用いる場合、水に比べて顔料が油によく溶け材に浸透するため、着色力は大きい。一般に針葉樹よりも広葉樹、新材よりも古材の方が、塗料の吸い込みが強いため濃く発色し、木目の美しさがきわだつ。油の塗膜は紫外線による若干の黄変(色やけ)を起こすので、淡い色合いを用いる場合は留意されたい。
油塗装の難点は、乾燥に時間がかかり作業効率が悪いことである。マスキングテープなども付着しないので、現場塗装する場合は工程の配慮と、塗料の付着に対する周囲の養生、充分な時間的余裕が必要である。乾燥速度を速めるために、乾燥剤や樹脂を添加した既調合の油もあるので、それを用いるのもよいだろう。
※撮影協力:山中油店
亜麻仁油 linseed oil
リネンの材料となる亜麻の種子を原料とする、代表的な塗料用乾性油。
オイルフィニッシュによく用いられるチークオイルやワトコオイルの主成分も亜麻仁油である。
乾燥すると水、油、各種溶剤にも溶けない艶のある丈夫な塗膜を形成するが、乾燥時間は長い。
これを改善するため加熱処理を行い、乾燥剤(ナフテン酸金属塩など)を添加することも多い(煮亜麻仁油)。これに顔料を混ぜたものが、原始的な油性ペンキである。
顔料の溶媒として優秀であるが、乾燥初期の段階からやや黄変が生じる。
桐油 tung oil
中国原産のアブラギリ(油桐)の種子を原料とする乾性油。支那桐油ともいう。
油そのものは粘りのある濃い褐色だが、塗った際の黄変は少ない。
他の乾性油に比して乾燥が速く、塗膜は特に堅牢である。
独特の強い匂いがある(乾燥後は消える)。
艶が少なく、手触りはやや粗いものの、耐水性、耐候性、耐薬品性に優れ、防腐効果もある。そのため中国では古来、船体塗料として用いられてきた。
ドライヤーなどで急激に乾燥させると、蝋のように白く濁って固まり、こするとはがれ落ちるので注意。
荏油 perilla oil
荏胡麻を原料とする乾性油。貞観年間に大山崎八幡宮の宮司により開発された、いわゆる「山崎の油」は荏油である。
灯明油として、また雨障子、和傘の耐水処理に用いられた。
塗料としての性質は亜麻仁油と似るが、乾燥性がよく、艶のある滑らかな仕上がりが特徴。
乾燥直後はほとんど色の変化がないが、日光による黄変が強い。
京町家の格子はベンガラを溶いた荏油で塗り、菜種油(不乾性油)で手入れをしたという。
椿油 camellia oil
椿(ヤブツバキ)の種子を原料とする代表的な不乾性油。
古来、上等な髪油として賞用された。
酸化しにくいため、木製の家具や道具、床柱の手入れ(防腐・防虫・艶出し)に用いられることが多い。
穏やかな艶のある滑らかな仕上がりで、特によく乾燥した古材に塗るとアメ色の深い艶が出る。紫外線遮断効果にも優れており木材の変色を防ぐ効果も期待できる。
なかなか乾燥しないが、塗膜をつくらず木材によく浸透するため、さほど気にはならない。
白木に塗る場合は吸い込みムラが出来やすいので注意。
※注意
乾性油が染みこんだウエスは高温になった場合、自然発火する可能性があるので、水に濡らしてから捨ててください。
参考文献:後日追記します
| ARTICLEs 小論 | 09.09.22