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長流亭:加賀1: 究建築研究室 Q-Labo.|https://q-labo.info/memo/000134.php
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長流亭:加賀1

江沼神社・長流亭

10月31日・11月1日と、これの授賞式を口実に、久しぶりの遠出で加賀・金沢旅行。前日からチビが熱を出していたけれど、レンタカーも借り宿も予約してあったので、今さら中止できるかと出発する。チャイルドシートが気に入らないチビの泣き声を背中に延々と聞きながら北陸道を走り、まずは加賀・大聖寺へ。

この近辺、安藤忠雄の中学校とか象設計集団の美術館とか、目当てはいくつかあったけれど、時間が少ないので一点に絞ったのが、江沼神社の長流亭。今回の旅行で見た建築で一番よかった。

これ、数年前の神楽岡の金沢遠足の際には存在も知らなかったのだけど、たまたま数ヶ月前に大龍堂で買った、『和風建築』というえらくマニアックな雑誌に載っていたので知った(雑誌『和風建築』は既に廃刊。編集:和風建築社、発行:建築資料研究社。ちなみに長流亭の解説は西澤文隆の筆で、いわゆる歴史建築の紹介と違った、設計者の視点からのディテール解読が切れ味鋭く面白い)。


 
左:長流亭平面図、右:回廊から一の間の付書院を見る(『和風建築』1983年8月号、p.88,89より)


長流亭の創建は1709年、加賀前田家の傍流・大聖寺藩第3代藩主の前田利直による。川に迫り出して建っているのは、ここから直接釣りを楽しむためだからという。

長流亭は、川からの端正な外観もさることながら、プランが面白い。とっても構成的なのだ。
正方形プランの外周を、一畳幅の回廊がロの字形に巡っていて、その内側に6.5畳の座敷が二つあるという入れ子状プランである。回廊に面した外壁は、四面すべて腰から鴨居まで障子の入った開口部になっている。
二つの座敷は、一の間(正の座敷)と次の間(控えの座敷)で、一の間の方には付書院がついている。その付書院の火灯窓に、回廊を横切った光がやわらかく差し込む。これだけでも入れ子プラン好きの僕としてはわくわくするのであるが、入れ子プランというだけなら、縁側のある日本建築ではそれほど珍しくない(とはいえ、これほど明快な回廊型プランは珍しい)。しかし長流亭の面白いのは、二つの座敷の床の間が斜交いに配置されている点だ。ロの字の廊下とあわせて見ると、全体として「二つ巴」形のプランとなっている。つまり点対称なのだ。点対称は回転対称ともいう(2回対称)。
回廊を巡って座敷に入ると、どちらの座敷に入ったとしても、同じ方向に床の間がある。そして、その床の間と呼応するように、もう一つの床の間が斜めに対面している。そっちの床の間に引かれるように次の座敷に入ると、再び外の光に導かれるように反対側の回廊に出てしまう。
まさに巴紋のように、グルグル回る回転運動が長流亭には仕掛けられているのであった。


 
「二つ巴」と「七宝ニ花菱」


亭の装飾では、板戸や畳縁など至る処にちりばめられた「七宝(+花菱)紋」が目を引く。江沼神社の宮司さんによると、この建築の基本構想は小堀遠州によるという伝があるらしく、七宝紋はそれに由来するのだとか(七宝は小堀遠州が好んだモチーフ)。
これが七宝じゃなくて巴だったら、建築の構成とも対応してバッチリなのに、と思ったが、よく考えると、円の中に菱が入った七宝も、この入れ子状プランをうまく図案化しているような気がする。七宝の4つの葉形が回廊であり、菱が座敷と見れる。さらに、辺を下にした安定感のある四角(□)と比べ、頂点を下にした菱(◇)は不安定な図形であり、そこには回転運動が潜在しているからだ。



玄関からみた座敷と回廊。残念ながら中は写真撮影禁止


長流亭は事前に申し込めば内部を見学させてもらえる。障子の外の板戸も一部開けてくれるけれど、いつか機会があれば、板戸を全開にした本来の状態で味わってみたいなぁ。

Tags: | MEMO 雑記・ブログ , SELECTED 選り抜き | 09.11.06 | (0)

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