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古色とエイジング: 究建築研究室 Q-Labo.|http://q-labo.info/article/000419.php
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古色とエイジング

一般財団法人・建築保全センターが発行する機関誌『Re』の、「アンチエイジング」という特集へ寄稿したものです。2004年に『コンフォルト』で書かせてもらった「古色:『古材色の再現』から『新しい表現』へ」以来の、12年ぶりの古色に関するテキストです。執筆にあたって久しぶりに先行研究を探し直しましたが、その後あまり研究は増えていない様子…。今回は、木材の表情の経年変化の実態をおさえた上で、古色の概念整理をしました。

一般財団法人建築保全センター『Re』No.189 掲載(2016年1月)【PDF】


1 はじめに

 様々な建築の木造化・木質化が進められている。日本における木材は、自然な表情への嗜好から素地に近い状態で使われるが、夏季の高温多湿に年間を通じた降雨という気候条件は、木材にとって厳しいものである。その一方で、建築の長寿命化が目指される時代にあって、時間の経過が魅力を減じない建築のあり方が求められている。本稿でテーマとする「古色」とは、時間の経過により生じる表情の変化を扱う概念である。以下では、主として木材と木造建築を念頭において、古色の概念整理から古色とエイジングの関係について論じてみたい。


2 「古色」とは

 「古色(こしょく)」とは、年を経た物の古びた色合いや趣きを意味する語である。具体的には、物が長い年月を経て日光や風雨に晒された結果、新しい頃の鮮やかではあるが刺々しい表情が薄れ、全体として褪せた・鄙びた・落ち着いた状態を指す。「古色蒼然」は、いかにも古めかしい様子を形容する言葉である。古臭い・時代遅れといった否定的なニュアンスで使われることもあるが、概ね古びたことで生まれる好ましい表情を指して用いられる。日本独自というわけではなく、ヨーロッパにもパティナpatinaという、色調の経年変化を指す類似の概念がある(銅の緑青(ろくしょう)はpatinaという)。
 建築をはじめ仏像や絵画などで評価される「古色」の価値は、時間を経ていること自体の価値=経年価値と美的価値、二つの価値の複合と考えられる。経年価値には歴史的価値という側面もあるが、「色」の字が示すように、経年による表情の変化に重点があり、経年価値と美的価値が結びついている点が古色の核心である。古色に美的価値を認める感覚は、枯れた渋い趣きを愛でる「さび」の美意識に通じ、「羅は上下はづれ螺鈿の軸は貝落ちて後こそいみじけれ」(『徒然草』第82段)という使い込みによる熟成を褒める心でもあろう。総じて人が作ったものに、歳月がもたらす自然な変化が重なることで生まれる、人為と自然の調和した魅力を鑑賞する態度である。

 
3 現象としての古色:木の表情の経年変化

 「古びた色合いや趣き」とは具体的にはどのような現象により生じるのか、素木の木材を例に経年変化の概要を見ておこう。写真1は数年から数十年経過した板壁であるが、色だけ見てもほぼ黒から濃淡の褐色・灰色・ほぼ白まで様々である。経年による変化には大きく化学的変化・物理的変化(割れ・痩せ・反り)・生物的変化(腐朽・虫害・カビ)・付着浸透(汚れ)があり、主な要因は紫外線と雨・微生物、特に前二者が決定的である。

写真1-1:築数年程度の杉板外壁


写真1-2:築90年程と思われる板壁:濃褐色と銀灰色に二分している(材種不明)

 日射による変色は、木材の光吸収による化学反応による。例えば日当たりのよい室内の杉板の場合、赤白が明快な新材から次第に黄色味が強くなり茶褐色(飴色)となる。天井材のように日射が少ない場合は褐色に留まるが、その後は長期間かけて徐々に彩度が落ち灰色に収斂するとされる。
 外部の雨掛かりでは、雨と紫外線による複合的劣化が進行する。特にデッキや壁の足元など、陽にも雨にもよく晒される部位は数ヶ月とたたず銀灰色となる。発色成分が光分解し雨で溶出し、紫外線に安定なセルロースだけが残るためと考えられている1)。雨掛かりのない外壁は、日射に応じた褐色化を経て最終的には灰色に変じるようである。並行して、軟らかい早材部が先行して風化し硬い晩材部が浮き上がる(いわゆる浮造りの状態)、吸湿乾燥=収縮の繰り返しによる亀裂の発生などの物理的変化が進む。屋内では繰り返しの水拭きにより汚れた水が浸透して床や柱が褐色化したり、煤の付着により梁が黒色化する変化もある。以上は素木の場合であるが、塗装等の仕上げを施している場合はもちろんその性状に影響される。
 「古色」とは、このような経年変化の中で、形態や構成などデザイン全体と相まって「好ましい表情」を獲得している状態、と考えてよいだろう。木造建築の場合、短期的な変化には樹種や表面性状も影響するが、長期的には紫外線と雨・仕上げの影響が決定的であり、設計とメンテナンスに左右されるところが大きい。


4 人為的な古色「古色仕上げ」

 歴史的建築の修復現場では、老朽化した材を新しい材に置き換える際に、しばしば古色に似た彩色を施すことがある。これを「古色仕上げ」や「古色付け」という。材を古く見せることが目的ではなく、新しい修復部と古色を帯びた既存部のコントラストが、全体の統一感を損ねて美的価値を減じたり鑑賞を妨げないよう、新旧の見えがかり上の調和を図るために行われる(写真2)。

写真2:古色仕上げの例:門の右が「古色仕上げ」した新築の塀。左の古い塀(築50年程)との調和に配慮している。

 この古色仕上げについては「古さの偽装」という主旨の批判も時折なされる。とりわけ経年価値が経済的価値に直結する古美術の世界では、昔から議論の種となってきた。しかし格段にスケールの大きな建築では、色はまだしも割れや痩せなど細部まで本物の古材と見紛うような加工はほぼ不可能であるし、そもそも文化財等の一部を除き建築の経年価値は今のところほとんど認められていないので、建築界では古さを偽装する需要もなく、あまり問題にならない。
 一部の古民家改修などで時に好ましくない古色仕上げも見られるが、それは真正性ではなくクオリティの問題である。古色仕上げにあたっては、微妙な色調や光沢の差・素地の質感に配慮しながら、全体的な調和を図ることが重要である。一律なオイルステインや塗膜の厚いペンキではなく、各種の無機顔料や植物油・柿渋・漆など伝統的な材料を調合して用いるのがよい(写真3)。調色性や手軽さの点もあるが、後述のように近世民家の多くは同種の手法で着色されていたため、表情の相性がよいからである(詳細は拙稿2)参照)。

写真3:古色仕上げのサンプル:写真2の塀に用いたもの。柿渋と松煙を材にあわせ調合している


5 表現としての古色

 昨年、式年遷宮を終え解体を控えた伊勢神宮外宮の旧正殿を、瑞垣の内から間近に拝観する機会があった。その威容は想像以上であったが、素木で20年風雨に晒された柱や壁の、変色はまだしも汚れや傷み(シミや黒ずみ・カビ・割れ等)はさすがに痛々しく(写真4)、隣に建つ新殿舎の光り輝く新材と見比べると、木材にとって過酷な日本の風土を思わずにいられなかった。古色仕上げに限らず、木材に塗装することを好まない人は少なくないが、日本人は素木を愛するあまりその経年変化に対してやや甘いところがあるように感じる。素木の経年変化はこのようにかなり激しく、腐食・虫害の問題もあり、特に外部ではその変化は必ずしも美しいものではないからである。

写真4:伊勢神宮の新旧の板垣:素木のヒノキ約20年の経年変化

 日本人に、経年の色を愛でるのと同等かそれ以上に、素木の無垢な清新を好む嗜好があることは疑いない。しかしそれを敷衍(ふえん)した「日本建築は古来より一貫して素木」という主旨の「素木信仰」については、数寄屋建築の碩学・早川正夫氏が、利休の草庵茶室や桂離宮の木部が素木ではなく色付けされていたことを指摘し、疑義を呈している3)。このことは、日本に木材を塗装する美意識や伝統もあったこと、茶室や桂離宮に見られる蒼然たる古色(写真5)が経年だけの所産ではないことを示す点で重要である。

写真5:桂離宮松琴亭の木部の色

 利休が待庵などの草庵茶室の木部に塗った「燻(ふすべ)色」は、煤と柿渋・漆などを調合したものと考えられている。色味は不明だが材料からすれば黒褐色の範疇であろう。着色の理由としては、混用される複数樹種と土壁の色彩的調和、弱い樹種への耐久性付与とあわせて、「わび」の美学にかなう表情(囲炉裏の煙で燻された木材の深みのある美しい表情)を人工的に創出しようとした利休の意図が指摘されている3)
 このような色付けの美意識は明らかに「古色」と通底するものである。しかし当然ながら自然の経年による古色ではなく、古色との調和を意図した古色仕上げでもない。色だけでは古材と間違えようもないから偽装にもあたらない。ここでの色付けの目的は、木部に古びた材に現れるような深みのある表情を与えることにある。皮付き丸太や土壁の使用と同じく、空間全体での「わび」を実現するための表現の一つであり、「表現としての古色」とでも呼ぶべきものだろう。


6 エイジングを誘導する古色

 茶室と同様に、江戸から明治にかけての民家では、煤や弁柄・柿渋・油・漆などを用いた各種の色濃い塗装がなされていた。京都の弁柄格子や江戸の黒塀、北陸の漆などがよく知られる。塗装の主眼は木材の耐久性向上と美観の維持であろう。現在各地の古民家で見られる黒々とした柱梁は、大抵こうした色付けをされた木材であるが、百年も経てば一目では塗装と分からず、経年変化で色付いたようにも見える。待庵の柱など、どれだけ凝視しても塗装の痕跡すら判然としない。
 このような茶室や民家の着色の色合いは、木材の経年変色を模したものであろう。それが実際に時間を経る中で、初期着色の減退と材の濃色化とが重なりながら魅力的な古色を生じてきたと考えられる。言い方を変えれば、初期の着色は「経年変化を先どる古色仕上げ」であると同時に、「経年変化を好ましい方向に誘導する仕掛け」でもある。
 前述したように、古色とは経年で生じる好ましい表情であり、好ましくない表情は汚損と見なされる。その差は曖昧で考え方次第と言えなくもないが、木造建築の表情の経年変化について、試みに数種に単純化したパターンを示したものが図1である。経過時間が横軸・表情の好ましさが縦軸で、右上のあたりが「古色ゾーン」となる。



図1:経過年数と表情の好ましさの関係


 竣工時に最も好ましい状態にあるが、徐々に好ましさが減じていくのが一般的な建築であろう(①)。素木の木造建築は初めは古びるほど評価が落ちるが、ある時期から古色方向に転じるカーブを描くと考えられる(②)。ある研究ではこの変曲点を築後50年頃とする5)。前述の「経年変化を先どる古色仕上げ」は、②の初期の沈み込みを緩和するとともに古色ゾーンへの速やかな移行を促すルートと位置づけられる(③)。好ましさの低下はメンテナンスによっても回復する(④)。式年遷宮は時間ごと巻き戻す例である(⑤)。理想は経年で徐々に魅力を増しながら古色ゾーンへ向かう建築である(⑥)。全設計者が目指すべき課題であるが、初期コストなどを考えると実現はそう容易ではないだろう。
 注意したいのは、ほとんどの木造建築は②の変曲点の手前あたりで解体される現実である。好ましくない表情になることが壊される理由のすべてではないにしても、③のルートをとることの意義と可能性は、現代において見直されてもよいだろう。古色仕上げを含む木材塗装は、古来用いられてきたエイジングを制御する手法であり、美観の維持だけでなく耐久性の向上という機能面も大きいのである。


7 おわりに

 古色の魅力とはものに刻まれた時間を味わう楽しみであり、そこに楽しみを見出すのは人間が時間の中に生きているからである。ものの古びた表情(狭い意味での古色)だけでなく、柱の背比べの傷から歴史的事件の痕跡まで、個人的・社会的な時間の物的表現(広い意味での古色)から私たちは豊かな意味を読み取り、ものや環境との愛着関係をとり結ぶ。それは豊かな環境形成のために不可欠なステップであり、古色を含む建築のエイジングは、そこで重要な役割を果たしうるはずである。


参考文献
1)屋我嗣良ほか『木材科学講座12:保存・耐久性』海青社, 1999
2)柳沢究「『古色仕上げ』を楽しむ。」コンフォルトNo.76, 70-75, 2004
3)早川正夫『数寄屋ノート二十章』建築資料研究社, 1998
4)橘高義典「建物のエイジング」Finex, 8(41), 17-21, 1996
5)三宅由里子・寺西浩司「印象評価に基づく木造住宅の好ましいエイジングに関する研究」日本建築学会大会学術講演梗概集, 1189-1190, 2012

| ARTICLEs 小論 | 16.04.14